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執筆者の写真紘照 山崎

【疾患解説】腰部脊柱管狭窄症

更新日:2019年6月22日



 『腰部脊柱管狭窄症』とは歩行や立位の負荷でお尻から足までの痛みやしびれを出現させる特徴を持った疾患で、高齢者に多い事もあり手術療法よりも保存療法が望まれる事が多い疾患です。


 保存療法の中でも鍼治療は有効であると多く報告されている治療法です。私が整形外科で勤務していた時に診させて頂いていた患者さんは半分以上の方が腰部脊柱管狭窄症と診断された方でした。薬物療法や運動療法だけでは効果不十分である方に鍼治療をさせて頂いてきて有効性は経験済みなので、腰部脊柱管狭窄症に鍼治療は効果的でおすすめです。


 今回はその『腰部脊柱管狭窄症』についてわかりやすく説明し、鍼灸治療では何ができるのか、どのような原理で症状が改善していくのか説明したいと思います。



腰部脊柱管狭窄症とは

腰部(腰の) 脊柱管(背骨の中にある管が) 狭窄症(狭くなる病気)


 背骨は体を支える柱である事は皆さんご存知だと思いますが、その背骨は「ちくわ」みたいに中は空洞となっており、その管の事を「脊柱管」と言います。

 脳から出てきた脊髄はその「脊柱管」を通って首から腰へ通過して行きます。

 脊柱管は首から腰まで繋がっていますが、『腰部脊柱管狭窄症』は【腰部】ですから腰の部分の脊柱管が狭窄する疾患となります。



Q. なぜ狭窄するの?

脊柱管が狭窄する理由はいくつかあります。

  • 骨が変形する

  • 靱帯が肥厚する

  • 椎間板が変形する

 以上のように、脊柱管を構成する「骨」や「軟部組織」が変形・肥厚して脊柱管は狭くなります。そして前述したとおり、脊柱管には「脊髄」という神経組織が通っているので、管が狭くなると神経が圧迫されてしまいます。



Q. なぜ痛みやしびれが出るの?

 神経にはその外部と内部に血管が存在します。神経を圧迫するという事はその血管も圧迫する事になるので、血流が阻害され酸素が運ばれないので神経は「酸欠」となり痛みやしびれが生じると考えられます。

 腰部の脊柱管に通っている神経は、「足」に行く神経なので、腰部脊柱管狭窄症では足に痛みやしびれが生じるわけです。



Q. なぜ立ったり座ったりすると症状が悪くなるの?

 脊柱管は座った姿勢より立った姿勢の方が狭くなるという特徴があります。なので腰部脊柱管狭窄症はしばらく立っていると足に痛み・しびれが生じます。


 歩くというのは【立った姿勢】で【足を動かす】という行為です。


【立った姿勢】では腰の脊柱管は狭くなり足へ行く神経を圧迫させその神経の血流が悪くなります。


【足を動かす】という事は足のエネルギーを使います。


 ただでさえ神経を圧迫して足に行く神経の血流が悪くなっている中、足を動かしてエネルギーを消費する事により、足へ行く神経はますます酸欠状態になっていき痛みやしびれを生じます。この事を「神経性間欠跛行」と言い腰部脊柱管狭窄症の特徴の一つです。



◯ 重症だと膀胱直腸障害が生じる

 腰部脊柱管狭窄症の特徴に「膀胱直腸障害」というものがあります。尿失禁や残尿感などの排尿障害や酷い便秘、陰茎の勃起障害などの事を言いますが、このような膀胱直腸障害が認められる場合は保存療法よりも手術が必要な場合がありますので、この様な症状が出たらすぐに担当のドクターに相談して下さい。



その症状は本当に腰部脊柱管狭窄症?

 そもそもあなたのお悩みの症状は腰部脊柱管狭窄症(以下、狭窄症)なのでしょうか?

 「お医者さんにそう言われたから」と狭窄症と勘違いしている場合が少なくありません。

 当院ではMRIなどの画像所見だけでなく、日本脊椎脊髄病学会が提唱している診断サポートツールを参考に4つの項目に対し全てYESとなれば狭窄症の可能性が高いと判断して治療を行います。

 その4項目とは


  1. 足に痛み・しびれがある

  2. 痛み・しびれは歩くと強くなり、休むと楽になる

  3. しばらく立っているだけでも痛み・しびれが生じる

  4. 痛み・しびれがある時、前かがみになると楽になる


 MRIなどの画像所見により狭窄症と病院で診断され、かつ以上の4項目が全てYESの場合は狭窄症の可能性が高いと考え問診・検査を続けます。



狭窄症の分類

一般に臨床所見による機能的分類は以下の3つに分けられます。

  • 神経根型

  • 馬尾型

  • 混合型


【神経根型】

 一つの神経領域の足の痛みが多く(例えば「スネの外側が痛い」とか「ふくらはぎが痛い」など)、片足に症状が出る事が多い。


【馬尾型】

 足やお尻の「ヒリヒリ」「ジンジン」などの異常感覚、足の脱力感が主な症状。足の痛みは感じない。片足よりも両足に出る事が多い。


【混合型】

 神経根型と馬尾型の症状が合わさったもの。



狭窄症は以上の様な自覚所見により3つに分類されます。



鍼治療成績

 当院では「ツボ」に鍼をするような東洋医学的な治療よりも、筋肉や神経への刺激を目的とした現代医学的な鍼治療をメインに行っています。現代医学的鍼治療を行う際非常に参考にさせて頂いている尊敬する鍼灸師、東京大学医学部附属病院の粕谷先生によると現代医学的鍼治療を行って以下のような報告をされています。


 間欠跛行(歩くと症状が悪化して続けて歩く事ができなくなる症状)を主症状年MRIなどで狭窄症と診断された患者さんで、初診時と治療3ヶ月時の連続歩行可能距離を比較すると、神経根型・馬尾型・混合型と全てのタイプで歩行可能距離が伸びた。中でも神経根型は初診時と3ヶ月後の歩行可能距離が馬尾型・混合型に比べると長くなり、改善した割合も神経根型が多かった。と報告されています。


 つまり、歩ける距離が全てのタイプで長くなり、特に神経根型は歩ける距離が随分長くなったが、馬尾型・混合型はそれに劣った、という事です。

 しかし馬尾型・混合型は鍼適応外かと言うとそうではなく治療すれば改善する可能性は大いにあるので、手術がすぐに必要ではないと問診・検査上判断された場合は先ずは鍼治療を受けていただく事をお勧めします。

 神経根型であれば症状が改善する可能性は高いので、お困りの方は是非ご相談下さい。



鍼治療のご紹介

◯ 神経の障害レベルを確認

 先ず、鍼治療を行うのに確認することは「患者さんはどこの神経が障害されているのか」です。

 症状が出現する部位や、腱反射、筋力検査、知覚検査を行い、どこの神経が障害されているのか確認します。

足に分布する神経は


  • 浅腓骨神経

  • 深腓骨神経

  • 脛骨神経


の3つでありその神経の支配領域から、スネの外に症状があると【浅腓骨神経】、スネの前だと【深腓骨神経】、ふくらはぎだと【脛骨神経】、とこのように判断していきます。



◯ 神経パルス

 神経の障害レベルがわかったら、その神経の近傍に鍼を入れて通電します(低周波鍼通電療法)。

 基礎研究により神経を刺激する鍼通電刺激は、ただ鍼を刺すよりも神経内の血流がより増えると言われています。


 また、東京大学医学部附属病院の粕谷先生は狭窄症患者さんに鍼で神経刺激をする事により、その神経の大本の神経根の血流が改善したと内視鏡を用いて確認され報告されています。

 この報告のポイントは「手術適応と判断された実際の狭窄症患者さん」を対象にした研究であるというところです。


 よく動物実験でラット(ネズミ)を使った実験がありますが、ヒト(人間)で同じ現象が起きるのか?という問題がありますし、また、「症状がない被験者」と「症状がある被験者」では同じ事を施した時に同じ反応を示さない事も言われているので、この研究では「ヒト」を対象として、かつ「狭窄症の患者さん」で検証しているので非常に価値のある報告なのです。

 狭窄症の主症状である間欠跛行は神経の血流が悪くなる事で起こる事は前述しました。

 つまり神経の血流が悪くなっているものを改善させれば、脊柱管が狭くなったままでも間欠跛行の症状は改善し、歩行可能距離は長くなっていきます。

 その治療法として当院では基礎研究などで立証されている方法で鍼治療を行っております。


◯ 実際の治療風景

・殿部で坐骨神経パルス(脛骨神経領域の筋収縮あり)

・下腿部で浅腓骨神経パルス(足関節外反→腓骨筋収縮)



まとめ

 狭窄症は足の痛み・しびれ以外にも歩行に支障が出る疾患で、歩けなくなる事は恐怖を生み、生活の質を著しく低下させます。手術が必要な重症な狭窄症でなければ、神経の血流が良くなる鍼治療を受けられる事を強くお勧め致します。


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